出会いと再出発

浜松市にある渋川という山あいの小さな集落。

そこには山に囲まれた田んぼがあり、
その中にポツンと水車小屋があります。

サワガニもいるきれいな小川が流れ、
とても癒やされるその風景が好きだった私は、
バイクで何度もそこを訪れていました。


ある日、髪を切ろうと馴染みの近所の床屋さんへ。

髪を切ってもらっているとマスターが、

「豊くん、今なにしてるの?」

と。

「なにも・・・・・・」

そう答えるしかなかった私に、

「お客さんに大工さんがいるんだけど、
 若い子が欲しいって言ってたから相談してみる?」

"大工"という言葉に無意識に反応したのですが、
自らその道を離れてしまったという事実に対し、
不安を感じていました。

何も返事を返せないでいるとマスターが、

「渋川に水車があるの知ってる?」

私が知っていると伝えると、

「あの水車を造った人だよ」

視界が開けた感じがしました。

そんな仕事がしたい!そこで働きたい!

一瞬で不安よりも期待と興味が勝り、
すぐさま紹介して欲しいとお願いをしました。

翌日、親方が家を訪ねてきてくれ、
私が玄関に出ていくと、


「お前か!大工になりたいってヤツは!」

「住み込みか?通いか?」

「若い衆がもったいねえ!明日からこい!」

三言で面接終了(笑)
 
次の日から親方のもとで再出発。

親方は根っからの職人で厳しい人。

「小僧が職人と一緒にいっぷくするんじゃねえ!」

「休憩してる暇があるなら刃物を砥げ!」

そう叱られてばかりで、
10時、昼、3時の休憩時間になると、
言われた通り道具の刃を砥いでばかりいました。

家に帰ってからも砥ぐ練習。

しかしどれだけ砥いでも、
褒めてもらえたことはありませんでした。

そんな修行が続く中、
初めて和室を造らせてもらった時のことです。

自分なりに上手くできたと思い、

明日親方はなんて言うかな

とちょっと楽しみにしていました。

次の日、親方がやってきて、
さらっと部屋を見渡しただけで一言、

「まだまだだな」

どこが悪いのか私はすぐに聞きました。

「柱とトメをよく見てみろ」 

親方は帰っていきました。

言われた部分を確認してみると、
1ミリあるかどうか、
わずかにズレていました。

悔しい・・・・・・

でもズレているのは事実。

一緒に作業していたベテランの大工からは、

「褒められることはないぞ。
 全部やり直しって言われなかったなら一応合格だろう。」

と言われました。

親方や先輩たちはどんな仕事をしているんだろう?

そこから他人の仕事をよく見るようになりました。

それまで見ていなかった訳ではありませんが、
見方が変わったのです。

見習っていう言葉は本当に字のとおり。

学校の勉強のように、
こうやれば答えが出るといったことは、
一つも教えてくれません。

試行錯誤しながら、
自分でやり方を見つけるしかない。

親方にダメ出しされるたびに、

ちくしょう!

このやろう!

正直そう思っていました。

でも同時に、

バシッとおさめて黙らせてやる!

そんな気持ちも湧き上がっていました。

この気持ちが自分の大工技術を磨き上げてくれて、
今があると思っています。

親方には20歳からの10年間お世話になり、
仕事以外にも色々なことを教えてもらい、
今では感謝の気持ちしかありません。

正に親のような存在です。

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